2017年5月29日月曜日

第3回ピカソ国際会議(バルセロナ)および第15回エコル・ド・プランタン(ジュネーヴ)発表報告

[松井裕美]

 この度、バルセロナで開催された第3回ピカソ国際会議(427日〜29日)およびジュネーヴで開催された15エコル・ド・プランタン(58日〜12日)に発表者として参加させていただく機会を得た。前者は2回目の発表、後者は4回目の発表・参加である。
 「ピカソとアイデンティティー」と題されたピカソ国際会議では、ピカソと解剖学の関係に関するこれまでの研究の独自の知見を踏まえつつ、ピカソ作品における女性像のアイデンティティーの変化がキュビスム的身体像と結んでいた関係を指摘した。このことを通して、ピカソのキュビスム的身体像の構築が従来考えられてきたような「女性への攻撃」ではなく、女性へ向けられた芸術家自身の眼差しへの内省とその解体に関わるものであるという視座から、《アヴィニョンの娘たち》を始めとする1907年前後の作品を再解釈した。結果会場に集ったピカソ研究者より新知見に対する承認を得たことは、この度の学会の個人的な成果である。また「想像力」をテーマにしたエコル・ド・プランタンでは、彫刻家デュシャン=ヴィヨンにおけるベルクソン思想の影響を論じた。そこではベルクソン思想の参照を証拠づける未刊行資料を紹介しながら、芸術家がベルクソンの生気論から受けた影響について、素描と手稿の分析をもとに論じた。本発表が契機となり、休憩時間中には会場の方々との対話の中で現在私が進めている研究課題に関連する有益な情報を得ることができた。

 ところで、この度のピカソ国際学会とエコル・ド・プランタンには、開催地固有の文化における「国際性」と「地方性」との関係を展開するという姿勢が共通して認められた。例えばジュネーヴの学会企画のエクスカーションでは、ジュネーヴの歴史遺産の保存と展示(展示理念や展示に関わる係争)に焦点をあてた解説がなされ、参加者同士で他の都市の博物館展示の問題と比較し議論する機会となった。またバルセロナでのピカソ学会ではピカソの「カタルーニャ性」、「スペイン性」といった視点が議題にのぼり、同芸術家の「フランス性」、「ドイツ性」、「ユダヤ性」、「ソヴィエト性」、「アフリカ性」と並置され、再検討された。こうして、国際的な評価を受けたピカソが様々な共同体(地域・都市・民族・国家)の歴史に再編される動的で複層的なプロセスが、会を通して浮き彫りになった。特定の地方の文化的特有性を主張するばかりではなく、文化の「地方性」が形成される歴史を、学問という客観的立場から国際的な場で共有し比較・考察の対象とする姿勢は、バルセロナとジュネーヴという、地方文化の特有性を大切に守りながら外部へと開かれた国際都市でもある場での開催であるからこそ一層、学会全体をより意義深いものにしていたように思われた。


ピカソ国際会議2日目の懇親会はバルセロナの街を一望するミロ財団の美術館で開催された。