2015年10月18日日曜日

ドイツのボンで「日本人が愛した印象派」展開幕

[三浦篤]

Japans Liebe zum Impressionismus, Von Monet bis Renoir 
8. Oktober 2015 – 21. Februar 2016
Bundeskunsthalle, Bonn 
【1116日追記(ブログ管理者)
上にあるドイツ語の展覧会名をクリックすると、日本語の紹介ページへジャンプします。



 ようやく肩の荷を下ろしたという心境です。5年間かけた準備がようやく実を結び、108日にボンの国立芸術展示場で展覧会が始まりました。日本の美術館、コレクションに所蔵される近代フランス絵画77点に、彫刻10点、浮世絵版画19点(ジヴェルニーのモネの浮世絵コレクション)、日本近代洋画19点、その他の作品や資料を加えて構成したもので、このような展覧会はドイツのみならず、ヨーロッパでも初めての開催になります。いや日本においてすら、これだけの内容の展覧会を開くことは決して容易ではないでしょう。

 
 ヨーロッパでは知られていない、日本が所蔵する印象派を始めとするフランス近代絵画コレクションの優れた作品(バルビゾン派、印象派からポスト印象派、ナビ派まで、すなわちコロー、ミレー、クールベ、マネ、モネからルノワール、セザンヌ、ゴーガン、ゴッホ、ボナールまで)を展示すること。それが本展の第1の目的ですが、実は他にも重要なポイントがあります。 

 ひとつは、このような日本のコレクションがどのようにして形成されたのかという、その歴史的な経緯を紹介することです。日本が大きな経済発展を遂げた19世紀末から両大戦間の時期に、松方幸次郎や大原孫三郎など日本の実業家たちは、欧米のコレクターたちと肩を並べる素晴らしいコレクションを作り上げました。さらに、第2次世界大戦後にも経済の発展と歩調を合わせるかのように、いくつもの重要なコレクションが出来上がっていったのです。展覧会では主要なコレクターのほかに、重要なフランス近代美術コレクションを所蔵する美術館(国立西洋美術館、大原美術館、ブリヂストン美術館、ひろしま美術館、東京富士美術館、ポーラ美術館、吉野石膏コレクションなど)も紹介しています。

 もうひとつの大きなテーマは、日本美術とフランス美術との密接な交流にほかなりません。19世紀半ばの日本の開国以来、浮世絵版画がヨーロッパに渡り、フランスの印象派、ポスト印象派の画家たちに衝撃を与え、彼らの芸術の大きな養分となったことは、いわゆるジャポニスムとしてよく知られています。他方、ジャポニスムにやや遅れて日本にも西洋絵画が根づき始めます。特に19世紀末から20世紀初めにフランスに留学した黒田清輝とその弟子たちが、フランス絵画の外光派アカデミスムや印象派の様式を我が国に移植したのです。浮世絵版画から印象派へ、印象派から日本近代洋画へという双方向的な日仏美術交流の歴史もまた、本展の中で示しており、日本でこれほど印象派絵画が好まれるのは、両国の美意識のつながりが濃厚であるのも大きな理由だと想像されます。そして、近代日本における印象派評価には、実はRichard MutherやJulius Meier-Graefeなど、同時期のドイツの美術史家の著作が影響を与えていたことも付け加えておきたいと思います。


 日本から遠く離れたボンで幸いにも展覧会を見ることができた方には、浮世絵版画、印象派絵画、日本近代洋画の美的な共鳴、交感をぜひとも味わっていただきたいのです(特にモネの部屋と最後の部屋)。この展覧会が画期的なのは、ヨーロッパでは知られていない日本の優れたフランス近代絵画コレクションを紹介することに留まりません。印象派絵画がジャポニスムや日本近代洋画と濃密な関係を持つことによって、日本のフランス近代絵画コレクションがより豊かに形成されたたことを示すことにもあるのです。それこそが本展の歴史的な意義にほかなりません。


 本展の実現に協力して下さったすべての皆さんに、心より御礼を申し上げたいと思います。まず、展覧会の意義を理解し、貴重な作品をお貸しいただいた日本の美術館には、どんなにお礼を申し上げても足りません。展覧会を主催された国立芸術展示場(館長のライン・ヴォルフスさん、ベルンハルト・スピースさん、スザンヌ・アンネンさん)の献身的なサポートにも、心より感謝申し上げます。そして、今回のCuratorial Teamドイツ側のベアーテ・マルクス=ハンセンさんとデットマー・ウエストホフさん、日本側の熊澤弘さんと薩摩雅登さん)にも感謝の念を捧げ、この喜びを分かち合いたいと思います。なお、この展覧会の最初の企画は、国立芸術展示場前館長のロバート・フレックさんとウエストホフさんが、数年前に私の大学のビュローを訪ねて下さったときから具体化したことも、申し添えます。他にも、在日ドイツ大使館などご協力下さった諸機関、個人の方々など、すべてのお名前を挙げることはかないませんが、深く御礼を申し上げます。

 なお、本展覧会にはドイツ語版のみならず、英語版のカタログもありますJapans Liebe zum Impressionismus [Japan’s Love for Impressionism],Prestel, 2015.

【10月25日追記(ブログ管理者)
三浦先生の日本語による展覧会紹介の動画リンクを掲載しました。
https://vimeo.com/142262355

2015年10月1日木曜日

高階先生、三浦先生トークセッションのご案内

[井口俊]

2015年10月19日(月)の16時より、東京大学駒場キャンパスで「絵画を楽しむ技術(メチエ)を語る――『名画を見る眼』から『まなざしのレッスン』へ」と題された、高階秀爾先生と三浦先生のトークセッションが行われす。
 お申し込み方法等、詳しい情報は以下の東京大学出版会のウェブサイトよりご確認いただき、ご興味のある方はぜひ足をお運びください。
http://www.utp.or.jp/topics/2015/09/10/event2_83031/